河童徳利。 昔々、西久保というところに五郎兵衛というおじいさんが住んでいました。 五郎兵衛は正直でとても働きものでした。 その上、優しくて、村の人たちからも慕われていました。 けれども、五郎兵衛は大変な酒好きで、せっかく稼いだお金もお酒を買うためにみんな使ってしまうのでした。 ある夏の日のこと。 幕戸川で馬の青を洗っていると、青のお尻に見たこともない生き物がしがみついています。 「誰か来てくれ」五郎兵衛が助けを呼ぶと、村の衆が手に手に棒を持って駆けつけてきました。 「何だろう、この生き物は。 悪さしないように捕まえよう。」 村の衆はその生き物を生け捕りにして、そばの大きな木に縛り付けました。 「五郎兵衛さん、今日はもう日が暮れる。 こいつはこのままにして、懲らしめるのは明日にしよう」と言うと、みんな帰っていきました。 すると「五郎兵衛さん、私は幕戸川に住む河童です。」 「河童だと。」 「今日はとんだ悪さをして申し訳ありませんでした。 実は、可愛い子供たちに少しでもうまいものを食べさせたいと思って馬にしがみついたのです。」 「お前、子がいるのか。」 「へえ、今頃、子供たちはさぞお腹を空かせて泣いていることでしょう。 命だけはお助けください。」 河童は涙をポロポロこぼして謝りました。 五郎兵衛はなんだか急にこの河童がかわいそうになったので、縄を解いて放してやりました。 河童は何度も五郎兵衛にお辞儀をして川へ帰っていきました。 その夜、五郎兵衛がすっかり酔っ払っていい気持ちで眠っていると。 「五郎兵衛さん、五郎兵衛さん。」 「お前は。」 「私は今日助けていただいた河童です。 五郎兵衛さんにお礼に参りました。」 「お礼?」 「飲みたいだけお酒が出てくるとっくりを差し上げましょう。」 「ほう、飲みたいだけ酒が出るのか。」 「ええ。 ただし、とっくりのお尻を三つ叩くと、酒はピタリと止まり、二度と出てこなくなってしまいますよ。」 夢から覚めた五郎兵衛が飛び起きて外に出ると、縁側にとっくりが一つ置いてあります。 中には溢れんばかりに酒が入っていました。 一口飲んでみると、「こりゃうまい。」 五郎兵衛は、ついでは飲み、ついでは飲み、したたかに酔っ払って、その日は仕事に行くのも忘れ、酒を飲み続け、いつの間にか眠ってしまいました。 それから五郎兵衛は、囲炉裏端でとっくりを撫でながら酒を飲み、そのまま眠り、目が覚めるとまた飲むという有様で、すっかり怠け者になってしまいました。 そして、何日も過ぎたある日のこと。 青の声が聞こえたので、五郎兵衛が馬小屋へ行くと、青は見る影もなく痩せ衰えているではありませんか。 「青、すまねえことをした。」 五郎兵衛は変わり果てた青の姿を見て、はっと目が覚めました。 それで、とっくりのお尻をぽんぽんぽんと三つ叩くと、酒はぴたりと止まって一滴も出なくなりました。 それから五郎兵衛は、また村一番の働き者になったんだとさ。