こぶとりじいさん。 昔、丹波の隣の山里に正直じいさんと欲張りじいさんがおった。 二人のほっぺたには大きなこぶがぶら下がっていた。 正直じいさんは働き者で、年中山の畑を耕して、豆やら芋やら育てていた。 秋になってたくさんの実をつける頃になると、欲張りじいさんがやって来て、さっさと取り入れてしまう。 ありゃりゃりゃ、またかい。 わしが育てた豆じゃがや。 何言うか。 この山で取れたものは、誰のものでもねえがや。 わしが食うて何が悪い。 おめえは何も働かねえで、欲ばっかりかいて。 ちゃんとおめえの分は残してあるわい。 はあ。 毎年毎年こんな具合だから、諦めるより他にない。 そんなある日、正直じいさんは旅から帰った村の人に、丹波の国にこぶを取ってくれる医者がいると教えられた。 ばあさまや。 おにぎり握ってくれ。 おら明日、朝、丹波へ行ってこぶ取ってくる。 ばあさまは喜んでおにぎりをこしらえ、じいさまに持たせた。 行ってくるぞ。 正直じいさんは山越え谷越え、どんどん行っても、ずんずん行っても、なかなか丹波には行き着かない。 夜になって困っていると、向こうに古びた祠がポツンと立っている。 よかった。 今夜はあそこで宿を取らせていただこう。 正直じいさんは祠に入っておにぎりを食べ、いつしか疲れて寝入ってしまった。 すると。 何事じゃ。 やれそりそりオーボンボン。 飲んで歌えやオーボンボン。 こらさちょいさオーボンボン。 好きやね酒飲んでオーボンボン。 これぇ、じじい、そこで何してる? わ、わしは旅の途中でここで寝ておっての。 あんまり面白そうな声がした先、つい見とれてしもうて。 ほうか。 面白かったか。 ほなら、こっち来ておめえも踊れ。 そりそりそりオーボンボン。 踊れや踊れオーボンボン。 オーボンボンオーボンボン。 はぁそりゃ何あののっぺんぼう。 こんなとこ目以内に聞かせるな。 そりゃそりゃそりゃのっぺんぼう。 こぶがぴろりんぺんぺろりん。 おらのお宝このこぶは。 大福持ちののっぺんぼう。 ちょいと来てみや丹波の山で。 右にたまげてのっぺんぼう。 ほっぺのこぶはぴゅるぴゅる回ってのっぺんぼう。 面白くてたまらん。 なんとも面白えじいさまじゃ。 また明日も来て踊ってくれ。 え? 明日はおらはちょっと。 嫌かじじい。 はい、来る、来ます。 このじじい、嘘ついてこないつもりか。 じゃあ、この大事そうなほっぺたのこぶ置いてけ。 ああ。 ああ。 約束のこのこぶ預かっとく。 来なきゃなんねえぞ。 必ず明日も来るから。 のっぺんぼう。 正直じいさんは飛ぶようにして、その日のうちに家に帰り着いた。 ばあさんや。 取れたぞ。 取れたぞ。 こここういうわけでな。 鬼どもにこぶ取ってもらった。 よかったのう、じいさま。 おい、じいさま、こぶをどこに置いてきた。 鬼どもに取ってもらったんじゃ。 わしに黙っておめえだけ一人で行くとは何事じゃ。 わしも行ってくるわい。 欲張りじいさん。 山越え谷越え、夜、あの祠に行き着いた。 き、来た。 やれそりそりオーボンボン。 飲んで歌えやオーボンボン。 おっかに鬼ばっかりじゃ。 ねぇ。 ひぇー。 おいじじい、ゆんべのじいさまとは違うな。 いや、うわ、ががががががが。 何を言っとるかわからん。 おめえもこち来て踊れ。 そりそりそりオーボンボン。 はぁ、何が、何がのっくりの、のっきり、あ、ほい、ほい、なんじゃわからん。 のっぺんぼう。 ほれほれ、のっぺんぼう。 何がのっきり、のっっきりのっぺんぼう。 なんじゃわからん。 のっぺんぼう、のっぺんぼう。 このこぶ持っててのっぺんぼう。 やべえやべえ、ちっとも面白くねえ。 このじじい、人真似しに来たな。 違う、人真似じゃねえ。 じゃあ、ゆんべのじいさまのこぶ土産にくれてやろう。 え? ほれ。 わぁ、いらねえよ。 やめてくれ。 二度と来るな。 く、く、来るな。 こぶはもういらねえ。 ああ。 両方のほっぺたにぶらぶらこぶを下げて、欲張りじいさんは泣き泣き家へ帰ったそうな。 ぐ。