猿の嫁さん。 昔、干からびた田んぼを見て、おじいさんが泣いていると、そばに猿がやって来て言いました。 「じいさん、どうして泣いている?」 「田んぼが干上がってしまって、このままでは稲が枯れてしまう。」 「それなら、わしが水でいっぱいにしてやろう。」 「本当か? もしそんなことができるなら、お礼にお前の欲しいものを何でもやろう。」 「それなら、わしは嫁が欲しい。」 おじいさんは少し考え、「うちには三人娘がいるから、そのうちの一人くらいなら嫁にやってもいいだろう」と言いました。 次の日の朝、田んぼには水がだんぶりと入っています。 「こりゃ、田んぼが水でいっぱいだ。 だが、娘を猿の嫁にやらねばならぬ。 どうしたら良いものか。」 おじいさんは困り果て、家に帰ると布団をかぶって寝込んでしまいました。 しばらくすると、一番上の娘が枕元に来て言いました。 「お父さん、ご飯が炊けましたよ。 起きておくれ。」 「悲しくて起きられない。」 「一体何が悲しいの?」 「お前、すまぬが、猿の嫁さんに言ってくれないか。」 一番上の娘は驚いて、「猿のお嫁になんて行きたくない」と部屋を出て行ってしまいました。 しばらくすると、二番目の娘が枕元に来て言いました。 「お父さん、お汁が煮えましたよ。 起きておくれ。」 「悲しくて起きられない。」 「一体何が悲しいの?」 「お前、すまぬが、猿の嫁さんに言ってくれないか。」 「猿のお嫁なんてとんでもない。」 二番目の娘も部屋を出て行ってしまいました。 おじいさんはますます悲しくなって、布団をかぶって寝ていると、末の娘がやって来ました。 「お父さん、お茶だけでも飲みませんか? どうか起きておくれ。」 「悲しくて起きられない。」 「一体何が悲しいの?」 「お前、すまぬが、猿の嫁さんに言ってくれないか。」 末の娘はおじいさんがあんまり悲しそうなので、「はい、私、猿のお嫁に行きます」と答えました。 それを聞いたおじいさんは驚いて飛び起き、「そうか、それならお前の欲しいものは何でも持たせてやろう」と言うと、末の娘は「それなら、壺と鏡をください」と頼みました。 次の日の朝、「おい、じいさん、約束通り嫁をもらいに来た」猿が家にやって来ました。 末の娘は猿に壺を背負わせ、鏡を袖の袂に入れて猿について行きました。 道の途中、娘は猿に気づかれないように石を一つ拾いました。 しばらく歩いていくと、橋のかかった川がありました。 橋の真ん中辺りまで渡った時、娘は拾った石をこっそり取り出して、ザブンと川に落とし、クスン、クスンと泣きました。 「おお、嫁御、どうして泣いている?」 「大事な鏡が川に落ちてしまいました。」 「それは大変だ。 わしが拾ってやろう。 その前に壺を下ろしてから行こう。」 「そんなことをしているうちに、鏡は流されてしまいます。」 「それもそうだ。 流される前に行こう。」 猿は壺を背負ったまま川に入り、鏡を探しました。 「ここら辺か?」 「もっと向こうの方。」 「ここか?」 「もっと向こう。」 猿が鏡を探しているうちに、背負っている壺の中に川の水がどんどん入っていきます。 「ここか?」 「もっと向こう。」 やがて壺は水でいっぱいになり、とうとう猿は壺を背負ったまま流されていきました。 娘は悲しそうに「さるどん、さるどん」泣く真似をすると、「わしの命惜しくないが、嫁が泣くのは気の毒だ」と言いながら、猿はどんごろどんごろ遠くまで流されていったんだと。