職場や友人、家族との人間関係、自身の病気......。 生きていると物事が思うようにうまく進まず、気持ちが落ち込んだりイライラしたりすることがあります。 時間の経過とともに解決すればよいですが、つらい気持ちがいつまでも続くと、「死にたい」「消えたい」などと考えてしまい、“実行”に移す人もいます。 つらい気持ちを楽にするには、どうしたらよいでしょうか。 精神科医の浅野聡子さんが、診療経験をもとに、心の負担を減らすための方策を紹介します。 小学校で30年間、教師をしていた67歳の女性は、白血病になった夫の看病のために仕事を辞めました。 やがて夫の病状は落ち着き、子育てもひと段落したため、趣味だったフラワーアレンジメントの教室を開き、お弟子さんに指導をしていました。 ある時、腹痛があり、私が勤めていた病院の産婦人科を受診したところ、卵巣がんと診断されました。 がんを取り除く手術を受けるために入院しましたが、開腹したところ、がんが広範囲にわたって転移していることが分かりました。 その後、抗がん剤治療を受けることになりましたが、気分の落ちこみが激しく、不眠や食欲低下といった症状もみられるようになり、私の診察を受けることになりました。 精神科の受診は、人生で初めてだそうです。 初診時、がっくりと肩を落とし、表情は暗く、抜け殻のようにぼんやりされていました。 どうしてこうなったのか、何が悪かったのだろう、もっと早く見つからなかったのか......。 自身の思いを小声で話してくれました。 私は、「まめに検診を受けていても発見できないこともある。 何が悪いとか原因が分からないことも多い。 あとで、こうしておけばよかったと後悔することがないように、よく考えて治療するかどうかの選択をしてほしい」と伝えしました。 適応障害と診断し、気分安定薬を処方開始しました。 薬は効き、1週間後の診察では「食欲が出てきた。 抗がん剤治療も頑張ります」と笑顔を見せてくれました。 その1か月後から、抗がん剤治療が始まりました。 初回は不安と緊張のあまり、「体がガタガタ震えてダメ。 もうずっとここにいてください」などとおっしゃっていましたが、2回目以降は特に問題なく過ごせていました。 検査の結果が順調な時は笑顔を見せ、芳しくない時は不安そうな表情で、「ショックです」などと言いながらも気丈に振る舞っていました。