明るい声を世の中に中村ラジオへようこそ。 生き方。 稲盛和夫。 細心の計画と準備なくして成功はありえない。 今まで誰も試みなかった前例のないことに挑戦するときには、周囲の反対や反発は避けられません。 それでも、自分の中にできるという確固とした思いがあり、それがすでに実現しているイメージが描けるならば、大胆に構想を広げていくべきです。 構想そのものは、大胆すぎるくらいの楽観論に基づいて、その発想の翼を広げるべきであり、また周囲にもアイディアの飛躍を後押ししてくれるような楽観論者を集めておくのがいいのです。 以前、私はよく新しい考えやアイディアを思いついたとき、こういうことをひらめいたがどうだろうと幹部を集めて意見を聞くことがありました。 そういうとき、難関大学を出た優秀な人ほど反応が冷ややかで、そのアイディアがどれだけ現実離れした無謀なものであるか、事細かく説明してくれることが多いのです。 彼らの言うことにも一理あり、その分析も鋭いものなのですが、だからといってできない理由ばかりをあげつらっていたのでは、どんないいアイディアも冷水を浴びせたようにしぼんでしまい、できることもできなくなってしまいます。 そういうことが何度か繰り返された後、私は相談する相手を一新しました。 つまり、新しく難しい仕事に取り組むときには、頭はいいが、その鋭い頭脳が悲観的な方向にばかり発揮されるタイプよりも、少しばかりおっちょこちょいなところがあっても、私の提案を、「それは面白い、ぜひやりましょう」と無邪気に喜び、賛同してくれるタイプの人間を集めて話をするようにしたのです。 無茶な話だと思われるかもしれませんが、構想を練る段階では、実はそれくらい楽観的でちょうどいいのです。 その構想を具体的に計画に移すときは、打って変わって悲観論を基盤にして、あらゆるリスクを想定し、慎重かつ細心の注意を払って、厳密にプランを練っていかなくてはなりません。 「大胆で楽観的に」というのは、あくまでアイディアや構想を描くときに有効なのです。 そして、その計画をいざ実行する段階になったら、再び楽観論に従って思い切って行動に取り掛かるようにする。 すなわち、楽観的に構想し、悲観的に計画し、楽観的に実行することが、物事を成就させ、思いを現実に変えるのに必要なのです。 これについては、冒険家の大場三郎さんからお聞きした話が参考になるでしょう。 大場さんは、世界で初めて北極と南極を単独で徒歩横断した人です。 その冒険に京セラの製品を提供したことから、お礼にと大場さんが私を訪ねてきてくれたことがありました。 私はその時、開口一番、命がけの冒険を辞さない大場さんの勇気を称えたのですが、大場さんはちょっと困ったような顔をして、それを即座に否定されました。 「いえ、私に勇気はありません。 それどころか、大変怖がりなんです。 臆病ですから、細心の注意を払って準備をします。 今回の成功の要因もそれでしょう。 逆に、冒険家が大胆なだけだったら、それは死に直結してしまいます。」 それを聞いて私は、どんなことであれ、事を成す人物は違うものだ、人生の真理というものをその掌中にしっかり握っておられると感心しました。 臆病さ、慎重さ、細心さに裏打ちされていない勇気は、単なる蛮勇に過ぎないのだと、この稀代の冒険家は言いたかったのでしょう。