オシラサマ。 昔、みちのくのある村に、父親と母親と女の子が三人で暮らしていました。 この家には立派な馬がいて、女の子はいつも厩で馬に話しかけたり、笑ったりしていました。 やがて女の子は美しい娘に成長しましたが、暇さえあればいつも厩で過ごしているのでした。 そんな娘を見て、父親は「どうしてあの子は厩にばかりいるのだろう」と思い、娘に言いました。 「お前はもう子供ではないのだから、馬とばかり話していないで嫁に行くことを考えなくてはいけないよ。」 すると 「私、お嫁には行きません。 この馬と夫婦になるんだもの」 というので、父親はびっくりして怒ったのなんの。 「馬と夫婦になるだと。 そんなことがあるものか。 この家に馬がいるのがいけないのだ。」 父親は馬を庭の桑の木につるして、ひどく折檻しました。 「お父さん、お願い、やめて、やめてください」 娘が泣いて頼んでも、父親の耳には入りません。 とうとう馬は弱って死んでしまいました。 娘は悲しんで日に日に元気をなくし、まるで馬の後を追うように亡くなってしまいました。 父親は娘の幸せを願う一心で馬を懲らしめようとしたつもりが、娘まで亡くすことになるとは思ってもいなかったので、「大変なことをしてしまった」と心の底から悔やみました。 それから、父親も母親も毎日毎晩おいおいと泣き暮らしました。 それからしばらく経ったある晩のこと。 娘が二人の夢に現れました。 「お父さん、おっかさん。 こんなにも悲しませてしまった私の親不孝をお許しください。 その代わり、お二人にお知らせしたいことがあります。 夜が明けたら、土間の臼の中を見てください。 そこに馬の頭のような形をしたカイコという白い小さな虫がいます。 その虫に馬を吊るした桑の木の葉を食べさせると、繭を作ります。 その繭から取った糸で織物を作り、それを売って心安らかに暮らしてください。」 目を覚ました父親と母親は、二人が同じ夢を同時に見ていたことに驚きました。 そして、急いで臼の中を見ると、そこには娘の言った通り小さな虫がたくさんいました。 その虫に桑の葉を与え、三十日飼うと白い繭になりました。 その繭を紡いだ絹糸はとても艶やかで、機織りをすると、今まで見たこともないような美しい布ができました。 父親と母親は庭の桑の木で娘の顔と馬の頭に似せた人形を作って祀りました。 これがオシラサマの始まりです。 オシラサマは養蚕の神様であり、お祀りしている家にいいことや悪いことがあると知らせてくださる、お知らせの神様でもあるということです。