山姥の娘。 昔、山の中の一軒家に若い男が一人で住んでいました。 ある年の大晦日、男が正月を迎える支度をしていると、外ではゴーゴー風が吹き、急に吹雪いてきました。 その時、戸を叩く音がして、「こんばんは、こんばんは。」 声がするので、戸を開けると、そこに山姥が立っていました。 男はびっくりしましたが、山姥は「今夜は大荒れで、山奥まで帰ることができない。 一晩ここに泊めてくれ」と言います。 男は恐ろしかったけれど、気の毒になり、「さあさあ、どうぞうちに泊まってくれ」と中へ招き入れました。 そして、大きな塩引きの鮭を焼き、お正月のために用意しておいた白いご飯を食べさせました。 山姥は本当はこの男を食うつもりで来ましたが、あんまり親切にもてなしてくれるので、男を食うのをやめました。 そして夜が明けると、山姥は「親切にしてもれって嬉しかった。 俺は山奥にある大きな門構えの家に住んでいる。 世話になったお礼がしたいから、春になったら訪ねてきてくれ」と言い、山奥へ帰っていきました。 春になると、男は山姥の家を訪ねてみることにしました。 山道は登るほどにだんだん細くなり、深い藪の中へ入っていきます。 木の枝や背丈ほどもある草をかき分けていくと、大きな門がありました。 「ごめんください」と呼ぶと山姥が出てきて、「おお、お前、よう来てくれた。」 男を綺麗な座敷に通し、山で採れた春のごちそうでもてなしてくれました。 その夜、男が山姥の家で寝ていると、「そろん、そろん」と部屋に入ってくる者がいます。 「山姥が俺を食いに来たのだろうか?」 男は怖くなり、とっさに布団にもぐりました。 すると、「もし、もし。」 語りかけてきたのは若い娘でした。 娘は赤ん坊の時、山姥にさらわれて、それからずっとここで働かされているのだと言います。 「あなたが帰る時、山姥は何でも好きなものをくれるというでしょう。 そしたら私をくれと言ってください」と男に頼みました。 朝になり、男が帰ろうとすると、山姥は「土産にお前の好きなものを何でもやろう」と言いました。 男は「俺はこの家にいる娘が欲しい」と答えました。 男は娘の手を引いて山姥の家を出ると、急いで山を下りました。 里に着くと、娘の家ではちょうど十七回忌の法事をしているところでした。 そこに死んだと思っていた娘が帰ってきたので、家の人たちはとても驚き、大喜びしました。 そして男はこの娘の婿になり、一生安楽に暮らしたということです。