おむすびころりん。 昔々、山あいの里に貧乏だが仲のいい爺さんと婆さんがおりました。 ある朝、爺さんは野良仕事の合間に山へ山菜を採りに行くことにした。 婆さんは働き者の爺さんのために大きな塩むすびを二つ作った。 婆さんの塩むすびは爺さんには何よりのご馳走だった。 いってらっしゃい。 ああ、行ってくらぁ。 爺さんは大きな籠を背負って、いつものようにテクテク裏山を登っていった。 その日はワラビ、ゼンマイ、タラの芽など、思いのほかたくさんの山菜が見つかった。 爺さんは普段は行かない山の奥へどんどん入っていった。 気がつくと、婆さんの待つ家をはるか下に見る尾根に来ておった。 ここらで昼飯したすべか。 おっと、あっとっとっとっとっとっと。 あららららららららら。 あら。 ああ、婆さんの塩むすびが。 よっぽど深い穴にちぎりかね。 じいさんやじいさん。 もっとくれろ、もっとくれろや。 塩むすび。 なんとしたことだべか。 もっとよく聞こうと穴の内に手をかけると。 じいさんやじいさん。 もっとくれろ、もっとくれろや。 塩むすび。 誰ぞばあさんの塩むすびが欲しいというだか。 無理もねえな。 これほどうめえ塩むすびはなかなか食えねえからな。 おや。 じいさん。 お前はこれから浄土へ行こうとしている。 じゃが、そこは人の浄土ではない。 くれぐれも猫の真似をしてはならぬ。 そう言うと、地蔵様が消えてしまった。 今度は白いネズミが現れた。 じいさんやじいさん。 あの塩むすびはじいさんの塩むすびか。 そうだ。 あんなにうまい塩むすびは食ったことがない。 婆さんの塩むすびを褒められて嬉しくなったじいさんはもう一つの塩むすびをくれてやった。 いつの間にか集まったネズミたちは大喜び。 じいさん、じいさん。 ここはネズミの浄土だ。 気がつくと、爺さんの目の前には星空のような灯りが広がった。 オラたちは年に一度の祭りの支度をしていて、思いがけず塩むすびをご馳走になった。 どうかオラたちの祭りを見ていってくれ。 ネズミたちに誘われて、踊れや唄えのもてなしを受けた。 へぇ、そうするうち、爺さんは婆さんのことを思い出して、そろそろ帰ってやらねばならねえなと思った。 わしゃそろそろお暇するで。 じいさん、じいさん待ってくれろ。 と宝箱の大きいのと小さいのを二つ用意した。 これはじいさんと塩むすびをこさえたばあさんへのお礼だから持ってってくれろ。 山を下りるのに大きい宝箱は重くて厄介だ。 小さい方をもらっていくで。 じいさんは小さい箱を担ぐと、ネズミたちに見送られて穴を出て行った。 外はもう夜になっていた。 今帰ったぞ。 じいさん、山で何かあっただか。 何かも何も。 何から話すべか。 じいさんは山で起こったことを話した。 そして、もらった宝箱を開けると、中には大判小判や上等な反物が詰まっていた。 じいさんは喜ぶばあさんを見て、なんだか嬉しくなった。 次の朝、隣の地所に暮らすじいさんが、昨日山で拾った山菜の詰まった籠を届けに来た。 大事な山菜を置いてくると、あくまでも出たか。 それは何じゃ? じいさんがネズミの浄土で見てきた話をした。 それだば、オラも行って大きい方の宝箱せしめてこればなるめえと言って大急ぎで帰っていった。 家に戻ると早速残っているおこげのご飯でおむすびを作り始めた。 多い方がいいだろうと三つ作ると早速山へ向かった。 木の根っこを越えて下に向かうと確かに穴があった。 早速おむすびを放り込んだが、何の声もしねえ。 おむすびくれてあったのに、例の一つもねえと。 勝手に中に入っていった。 やがて光り輝く地蔵様が現れ、この先がネズミの浄土だから猫の真似はしないよう注意を促した。 しばらく行くと地面に今し方放り込んだおむすびがあった。 なんだ。 今日のおむすびは口に合わねえだか。 おや、ここがネズミの浄土か。 ここから先はネズミの浄土じゃから行くのは遠慮してくれろ。 隣のじいさんは宝箱さえ持ち帰ればいいんじゃ。 ネズミには用はねえと考えた。 すると。 ネズミたちは一斉に逃げ出した。 すると星空は消え、真っ暗になった。 隣のじいさんは手探りで宝箱を見つけようとしたが、全く見つけられず、しかも迷子になってしまった。 やっと穴から這い出したが、穴に入って三日三晩が過ぎていた。 それからしばらくして穴を探したが、全く見つからなかったという。