おぶさりて。 昔、夜になると。 おぶさりて、おぶさりて。 と言いながら歩き回る化け物がいました。 ある時、二人の侍が碁を打っていました。 一人はとても怖がりだったので、もう一人の侍は、「一つこやつを怖がらせてやろう」と思いました。 「村外れのお社に化け物が出るそうだ。 噂が本当か確かめようじゃないか」。 「おっかねー、おっかねー。」 怖がり屋の侍は、夜のお社を想像するだけでも背筋がゾッとしました。 「この勝負に負けた方がそのお社へ行って化け物を退治しよう」。 「よし、わかった」臆病者だとからかわれるのが嫌なので、怖がり屋の侍はしぶしぶ碁を打ちましたが、勝負に負けてしまいました。 そして、たっぷりと日も暮れてから一人でお社へ行きました。 「恐ろしくてたまらないが、負けてしまったから仕方がない」一の鳥居の前に来ると、先が見えないほど辺りは真っ暗。 侍は勇気を振り絞り、鳥居をくぐりました。 すると、「おぶさりて、おぶさりて」と声が聞こえました。 「ひー、おっかねー。 だけど、きっと今の声は気のせいだろう」そして、二の鳥居をくぐると、「おぶさりて、おぶさりて」やっぱり声が聞こえます。 「どうしよう。 あれは化け物の声に違いない。 恐ろしいが、ここで引き返したら臆病者だと笑われてしまう」と思い、やっとのことで三の鳥居をくぐりました。 お堂のそばには大きな杉の木が立っています。 恐る恐る近づくと、「おぶさりて、おぶさりて」すぐそばから声が聞こえてきます。 「うわ、おっかねー。 化け物に違いない。 一体どこにいるのだろう」。 「おぶさりて、おぶさりて」その声は杉の木の上から聞こえました。 「おぶさりて、おぶさりて」。 「えー、そんなにおぶさりたいなら、おぶされ」侍が思い切って背中を木に向けると、杉の木の上の方がざわざわっとして、ずしり何かが背中におぶさりました。 「うわあー」侍は化け物を背負ったまま、一度も振り返らず夢中で走り、家にとび込むと、「そら、化け物、下りろ」と重たい化け物を背中から放り出し、布団をかぶって寝てしまいました。 次の朝、男が起きると、座敷いっぱいに大判小判が散らばっていました。 さあ、化け物の正体を知ったもう一人の侍は、大層悔しがったそうな。