むかしむかし、京の町のある墓場に、不思議な墓石が二つありました。 その一つの墓石は、夜になると青白い幽霊火に包まれます。 そして、もう一つの墓石は夜になると、 「おそろしや、おそろしや」 と、女の人の泣き声をはなつのです。 だから日が暮れると、この辺りには誰一人近づきません。 ある日の事、若者たちが集まって、 「誰か、あのおそろしい墓石まで行って、不思議の謎を解く者はおらんか?」 と、言いました。 すると、武芸の心得がある一人の若者が進み出て、 「よし、おれが行こう」 と、さっそく、墓場へ出かけて行きました。 あたりは真っ暗な上、しょぼしょぼと雨も降り出してきました。 「正直怖いが、何が出ようとも、決して逃げ出してはいかんぞ。 わかったな」 若者は何度も自分にそう言い聞かせて、恐る恐る墓場に入って行きました。 すると、うわさ通り、 「おそろしや、おそろしや」 と、墓石から女の人の声が聞こえて来たのです。 しかし若者は勇気を出すと、その墓石に向かってたずねました。 「一体、何が恐ろしいのだ? よければ、おれがわけをきこう」 すると墓石から、美しい女の幽霊が現れて言いました。 「はい。 実はこの世に、勇気のある人がいるかどうかを確かめようと、こうして毎晩出ているのです。 あなたに勇気があるのなら、あそこに燃えている墓石のところまで、わたしを連れて行ってくださいな」 たとえ幽霊でも、相手が美人なら怖くありません。 若者はうなずくと、 「わかりました。 では、まいりましょう」 と、幽霊の手を引いて、幽霊火が燃えている墓石まで連れて行ってやりました。 すると女の幽霊は、 「しばらく、待っていてください」 と、燃えている墓石の中に、すーっと消えてしまいました。 しばらくすると墓石の中で、何やら幽霊同士の話し声が聞こえてきます。 やがて墓石から出て来た女の幽霊は、さっきの美人とはうってかわって、見るも恐ろしい般若(はんにゃ)の顔でした。 さすがの若者も、全身の震えが止まりません。 女の幽霊は、 「わたしを再び、墓石まで、おんぶしてくださいな」 と、若者の首に、氷の様に冷たい手を巻きつけてきました。 若者は怖さのあまり、気を失いかけましたが、 (ここで気を失っては、男の恥! しっかりするんだ!) と、勇気をふりしぼって、幽霊を背負いました。 やがて元の墓石に戻って若者が幽霊をおろすと、幽霊は元の美人に戻って言いました。 「ありがとうございます。 あなたの様な勇気のある人に会う事が出来、もう思い残す事はありません。 さあどうぞ、この袋をおとりなさい」 と、若者に小さな袋を手渡して、墓石の中に消えてしまいました。 若者は急いで仲間のところに駆け戻ると、さっきの墓場での出来事を話して、幽霊からもらった小さな袋を開けてみました。 するとその袋の中には、金貨や銀貨が何枚も入っていたという事です。 おしまい