ノタ坊主。 昔、尾張の国に酒造りが盛んな上半田という村がありました。 大きな黒い酒蔵がいくつも並んでいて、蔵の周りには竹藪が広がっていました。 この竹藪にはノタ坊主と呼ばれている一匹の古狸が住んでいます。 ノタ坊主は酒が大の好物。 毎年春先になると酒蔵に忍び込み、せっかくできた酒をこっそり飲んでしまうのでした。 村人たちはいつも悔しがっていました。 ある時、村人たちは集まって相談しました。 何としてもノタ坊主を懲らしめたい。 蔵の入り口で待ち伏せして、上から網をかぶせて捕まえよう。 だけどあいつは利口だから、きっと気づかれてしまうだろう。 ノタ坊主に搾りたての強い酒を飲めるだけ飲ませて、酔っ払ったところをみんなで捕まえるというのはどうだ? それならうまくいきそうだ。 ノタ坊主が来て酒を飲み始めても、すっかり酔いが回って足がふらつくまでみんな気づかないふりをするんだぞ。 そして季節が巡り、冬が過ぎ、春先になって酒ができた頃、ノタ坊主はまた酒蔵にやって来ました。 酒蔵の中は搾りたてのおいしそうな酒の香りでいっぱいです。 こりゃうまそうだ。 舌なめずりをして、桶に首を突っ込み、グイッと酒を飲みました。 村人たちはノタ坊主が酒を飲んでいることに気づきましたが、相談した通り知らん顔をしてせっせと仕事に励んでいるふりをしていました。 ノタ坊主はグビリグビリと酒を飲み進めます。 あー、うまかった。 満足だ。 そろそろ帰ろうか。 桶の上から下りようとしたその時。 今だ。 それ。 村人たちが一斉に飛びかかると。 こりゃ大変だ。 驚いたノタ坊主は慌てて逃げようとしましたが。 あれ? おっとっとっと。 ふらふらつるんと足を滑らせ、真っ逆さまに落ちてしまいました。 待ち構えていた村人たちはついにノタ坊主を捕まえました。 俺たちが丹精込めて作った酒を、よくも毎年タダで飲んでくれたな。 さあ、どうしてくれようか。 悪かった、悪かった。 もう決して蔵の酒を飲んだりしませんから、どうぞ許してください。 精一杯頭を下げて謝るので。 今度だけだぞ。 かたくな念を押し、ノタ坊主を放してやりました。 それからノタ坊主が酒を盗みに来ることはなくなりましたとさ。