大元団の古狸。 昔、大きな戦があった根白坂から深く深く切り込んだ大元団という谷の奥に、大元狸と呼ばれている一匹の古狸が住んでいました。 ある日、春の陽気に浮かれた大元狸は何かいたずらをしたくなりました。 そこへ一人の女の子が歩いてきたので、よし、あの子に化けて一つ驚かせてやろう。 うしししし。 と企み。 顔も着物も女の子そっくりに化けました。 そこへその子が来てびっくり仰天。 まあ何から何まで私と同じ。 あなたは誰? 大元狸は女の子の声を真似て答えます。 私は山菜採りに来たの。 あなたは何をしに来たの? 私はおっかさんが病で寝ているものだから、薬にするセンブリを採りに来たの。 センブリはこの谷にはありません。 それよりこれが一番効きますよ。 大元狸は道端に生えているドクダミを指さして言いました。 そうなの、知らなかった。 ドクダミを取ろうとした女の子は思わず手を引っ込め。 嫌な匂い。 これは本当に効くの? 薬草は臭いほどよく効きますよ。 大元狸は親切なふりをして口から出まかせを言いました。 それなら取っていく。 ありがとう。 女の子がドクダミを積んで帰っていくと、大元狸は元の姿に戻り。 そうだ、あの子がおっかさんにドクダミ汁を飲ませるところを見にいこう。 きっとまずくて苦しむぞ。 うしししし。 大元狸はこっそり女の子の後をついて行き、家の中を覗きました。 おっかさんまだ痛む? まだお腹が痛くてキリキリする。 センブリより効くという薬草だから、これを飲んで。 おっかさんはドクダミの匂いを嗅ぐと顔をしかめました。 こんなものが効くのかしら。 それはただのまずい草の汁だぞ。 さあ、早く飲め飲め。 うしししし。 母親思いの女の子は飲んでもらおうと一生懸命勧めます。 私にそっくりの子がよく効くと言っていたから、さあ、辛抱して飲んで。 おっかさんは一口一口、やっとのことで全部飲み干しました。 すると。 あら、なんだかお腹がすっとして痛みが取れてきたみたい。 よかった。 二人は手を取り合って喜びました。 大元狸はドクダミが本当に薬になるとも知らず、いたずらをしたつもりだったので、当てが外れてがっかりしました。 まあいいか、たまにはいいこともしないと、お天道様の罰が当たるとつぶやいて、大きなお腹を撫でながら大元団へ帰っていきましたとさ。